ウキアシタタズ

頑張れたことを頑張って書きます

考えてたこと③

3.不便

便利なことって沢山あるけれど、便利って楽しいか?って言われると微妙なところです。

 

便利になって、出来なくなることは沢山あります。道具なしでいきなり「火をつけろ」と言われても大体の現代人は出来ないでしょう。


それは火を付けることにかかる時間やコストが無駄だから、時代が進むにつれて淘汰されたとも言えます。だから便利が悪いと言いたい訳ではありません。(この文もスマホで打ってるし)

 

ただ、ゼロから火起こしをあえてさせるような経験が出来る場所というのは今でもあります。当然需要があるからです。

 

火起こしをすることで、文明の進展を感じたり、いざと言う時に備えたり、サバイバル気分を味わったり、人によって楽しみ方こそ違いますが、そこにニーズや価値が生まれることは多々あると思います。

 

これはごく一部の話で、不便だからこそ楽しめるものっていくらでもあると思います。
私はゲームが好きなので、安易にFFを例に上げちゃいますが、冒険始まってからいきなり飛空挺が使えたら、嫌じゃないですか。旅で大体の村やダンジョンを歩いて回るっていう「不便」があるからこそ、終盤のワープなり飛行艇に感動できる訳ですよ。

 

ゲームばっかの話で申し訳ないですが、属性三すくみだとか、ジョブシステムの得意不得意だとか、楽しみの中にも不便は溢れてます。いや、不便があるからこそ、面白さは際立ちます。

 

歩き旅の話に戻ります。ここまで来れば話の流れは察しが着くとは思いますが、歩き旅は不便だらけです。遅い、疲れる、宿はない、寒い、暑い、危ない、もっとありますね。

 

だからこそ、不便をどう乗り越えるか、壁にぶち当たった時に、自分を輝かせるチャンスになりうるんです。「俺スゲー」って思えるんです。不便が生むのは工夫で、工夫は面白い。

(おわり)

 

おまけ
また「歩く」という、人にとっての原初的行為に立ち返ることで、ヒトの身に微かに宿る魔力の素養を限界まで引き上げることが出来る。
(現象を魔術の一端として捉えることが可能になる)

 

急に何を言っているんだこいつは、鋭い眼光を目の前の男に向ける。向けざるを得なかった。関与する必要などないのに、足はその場を離れず、目は男の姿を追い、耳は既に男の声に傾いていた。身体の不自由は、男に対する不信感を更に高める。

 

「君たちが呼んでいる科学というものは、あたかも魔術と呼称しても大きな差はないんだよ。」
大袈裟に身を振りながら、なるべく大仰にその内容を伝えようとしてくる。不愉快だ。

 

「仮に君がーーー。そうそこの君だ。君が遥か彼方、1000年前の人間ならば、現代の文明の発展を見て『これは魔術なんだ』そう告げられたならば、信じる他ないのではないだろうか。」

 

「要は呼び方の問題でしかないのだ。魔術に相応しい形に押し込めば、そこに差などありはしない。一つ例を示してみようか。」

電車というのは、
「駅」という魔法陣の中で
「切符」を媒介に
「距離」を対象にしたーーー
圧縮魔術である。

 

「『電車に乗る』たったそれだけの行為が、魔力を持たない人間に赦された、簡易的な空間圧縮術式なんだと、そう思わないかね。」

 

「自分も魔術に触れている?」あまりに現実離れしたこの事実に驚愕したのか、あるいは目の前にいるこの男の語り草に怯んだのか、一瞬の狼狽を生んだ。
男はそれを見逃さなかった。言葉を次ぐ。

 

「文明の利器に頼りきった現代の人間は、その現状を、利便性を、当然だと思っている。
ーーーいや、当然であるからこそ、当然か否かを問うことも忘れている。」

「そんな《当然》という呪縛から解き放たれる為の手段、それが徒歩であり、魔術を通して観測するということなんだ。」

 

何なんだこいつは。さらに嫌悪感が増し、舌打ちする。

 

「利便性の不認知、あるいは『当然』が常駐した精神汚染に対する、防壁・隔離の術式」
男が早口でまくし立てる。
舌打ちなど聞こえなかったように、狂ったように話し掛けてくる男をただ呆然と眺める他なかった。

 

「当たり前のことを当たり前じゃないと認識するためには、『一度失う』必要があることは、了承済みかな?そうでなくても、君はもう知ってるはずじゃないか。失敗する前から後悔なんて出来ないってね。間違えるから後悔出来るんだ。本来あるはずの《成功》の欠如、それが後悔の正体だ。」

 

本当に不意に、琴線に触れられた。誰が、後悔なんてーーー。知ったような口を聞くな。しかし、激昴は声に出ない。

 

「今まで当たり前だった、誰かを亡くす、モノを失くす、何でも構わないが、これらは大抵、不慮の事故のはずだ。コントロール不能で、神の采配たるものだ。」

 

「こういう偶然からしか、人は自分の傲慢さに気付かないのが普通だ。しかし、それでは実際に何かを失くすという実害が起きてからでしか、身動きが取れないーーー手遅れだ。」

 

男は先程までは見せなかった憂いの表情を浮かべながら、淡々と言葉を紡いでいく。ただ、何かあったのだろうかと、詮索する余裕はこちらにない。

 

「だから、自らで仮の「喪失」を創造すればいい。それが私の魔術体系の根本さ。」

先程までの憂いが冗談のように、声のトーンが上がり、傍から見ても高揚しているのが分かる。空気が薄くなる、熱気を帯びる。
そしてーーーー。

 

「徒歩!」

男が叫んだ。風が哭き、空気が振動する。意味も大してないであろうその咆哮に耐えられず、体勢を崩す。


男は何かを仕掛けてくる。そう身構えていた事が幸いだった。気までは失っていない。だが、肋骨が何本か折れている。

 

「徒歩とは、人の根本だ。前に進むための根源的ツール。だからこそ、歩く事以外は排除する。前に進むこと以外の《当然》を擬似的に失わせる。交通手段も!人間関係も!宿も!」

男は悠然と構え、続ける。

 

「そして気付くんだ。自分が如何に《当然》に囲まれていて、それなしでは無力でどうしようもない奴だってことをさ。」

私は黙っていた。黙るしかなかった。先程までの怒りはどこへ行ったのか、対峙する2人を包んでいるのは悲壮感だけだった。

 

「もう一つ、擬似的とはいえ、喪失の旅のあとに見えるものを、君は知っているかい?」

言葉が出ない。首を振ろうとするが、それすらも叶わず、空白が会話の間を埋めていく。
男はふっと笑って、両手を広げる。

 

「自己肯定だよ。自分が《当然》抜きでここまで出来るんだ、という認知だ。自分が如何に無力かを知るのと同じように、自分の本来の力を思い知るんだ。」

 

体に力を入れる。軋む。激痛が全身を包み、ギシギシと嫌な音を立てている。それでも、立ち上がる。まだ聞かなきゃいけない事が沢山ある。

「へぇ、まだ動けるんだ。もう止めればいいのに。ーーーそうだね。終わりに、しようか。」


彼は告げる。その魔術を。
この先もずっと。


ーーーこんなことを脳内で描きながら、歩いていたと話したならば、笑われるだろうか。足を動かしても動かしても変わらない景色の中で、悠久の時間を過ごしてもらえば、少しはこの気持ちも分かってもらえるかもしれない。
話す相手はいないから、頭の中は空想ばかりを描いていく。

残り、100km地点にて。
(なんだこれ)